バックオフィスBPOの範囲外条項:資格者の業務に触れない書き方

経理や労務、書類手続の事務を扱う契約書では、事務の補助と、資格者でなければ行えない業務を、範囲条項で書き分けておく必要があります。条文の当てはめではなく、契約書の書き方に絞って整理します。

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「資格者の業務を含まない」の一文だけでは、何が除外されるのか伝わらず、運用の場で機能しにくい書き方です。

このページの要点

  • 除外する業務を、申告書等の作成・官公署への手続の代理・法律事務などの種類で書き分ける。
  • 除外した業務は、委託者が自ら行うか別に委ねるものとし、責任の所在を書く。
  • 範囲に関する定めは、秘密保持の契約書ではなく業務委託契約の範囲条項に集める。
  • サービスの説明や広告が、資格者の業務を行うかのように読めないようにする。

結論:事務の補助は書き、資格者の業務には触れないことを範囲条項に書く

バックオフィス業務の委託では、経理、労務、書類手続といった分野の事務を扱うことが少なくありません。伝票を入力する、資料を整理する、委託者が作成した書類の体裁を整える(転記・誤字の確認など)、といった作業は事務の補助ですが、その延長線上に、法律で特定の資格者にだけ認められた業務があります。税務書類の作成や税務相談、労働社会保険に関する申請書類の作成と提出の手続、法律事務、官公署に提出する書類の作成などです。事務代行の契約書は、この線の手前で止まるように範囲を書いておく必要があります。

契約書で行うことは、「この行為は適法か違法か」を判定することではありません。それは個別の行為と条文を照らして決まることで、契約書の役割の外にあります。契約書の役割は、事務の補助として任せる範囲と、資格者でなければ行えない業務を含まない旨を、はっきり分けて書くことです。そのうえで、範囲外の依頼が来たときの扱いと、受ける側の広告や名称が誤解を与えないようにする注意を決めます。

  • 範囲条項で、事務の補助として行う作業と、行わない作業(税務書類の作成・申告の代理・労働社会保険の申請書や帳簿書類の作成・法律事務・官公署への手続の代理・契約書などの作成)を、別の項に分けて書く。
  • 「含まない」と書くだけでなく、含まない業務について、委託者が自ら行うか別の者に委ねる、という責任の所在を書く。
  • 数字や書類を整理して渡すことと、内容を判断して作成することは、別の作業として書き分ける。
  • 範囲外の依頼が来たときの記録を残し、同じ依頼が繰り返されても、範囲が静かに広がらないようにする。
  • 受ける側の業務の名称、サービスの説明、広告が、資格者の業務であるかのように見えないようにする。

このページは、5つの軸のうち「任せる範囲」の一部、範囲外の書き方に絞っています。業務の一覧や三分類といった範囲の基本は業務範囲のページ、範囲外の依頼が来たあとの手順は同ページの「範囲外の依頼」の節にあります。このページでは条文の判断は書かず、契約書の書き方だけを扱います。

資格者の業務の範囲を定めた条文:契約書で引用するための確認

範囲条項を書くとき、「資格者でなければ行えない業務」という言葉だけでは、何を除外するのかが曖昧です。そこで、どの法律が、どのような業務を、誰に限って認めているのかを、条文で確かめておきます。次の一覧は、各条文の要旨です。契約書に条番号まで引用する必要はありませんが、除外する業務の種類を言葉で書き分けるための土台になります。

資格者の業務を定めた条文(要旨)

税理士法2条1項

税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、税務代理、税務書類の作成、税務相談の事務を行うことを業とする。

税理士法52条

税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。

社会保険労務士法2条1項

社会保険労務士は、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、その提出に関する手続の代行、事務代理、帳簿書類の作成などの事務を行うことを業とする。

社会保険労務士法27条

社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、同法2条1項1号から2号までに掲げる事務を業として行ってはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合などは除く。

弁護士法72条

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は除く。

行政書士法1条の3・19条

行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業としてこの業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合などは除く。

条文には例外が定められています。個別の作業がこれらに当たるかどうかは、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。契約書では、除外する業務の種類を書き分けるために使います。

この一覧から分かるのは、資格者の業務の多くが「他人の求めに応じ」「報酬を得て」「業として」という要件を伴うことです。事務代行は、まさに他人の求めに応じて報酬を得て継続的に事務を行う仕事ですから、作業の内容によっては、これらの条文の近くに位置することになります。契約書の範囲条項は、事務の補助という枠の中にとどまることを、受ける側と任せる側の双方が確認するための書面でもあります。

なお、税理士法2条2項は、税理士が、税理士の名称を用いて、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができると定めています。条文の文言上、この付随業務は、同条1項の「税理士業務」の外に置かれています。記帳の代行を資格を持たない者が受けられる範囲は、作業の中身によって分かれます。経理の補助の契約書では、記帳の代行と税務書類の作成を、別の作業として書き分けておくことが、範囲条項の出発点になります。

数字を整理して渡すことと、内容を判断して作成することは別の作業

範囲条項で最も書き分けが難しいのは、「整理して渡す」と「判断して作る」の境目です。たとえば、領収書を日付順に並べ、勘定科目の欄に委託者が指示した項目を転記する作業と、どの科目に当たるかを受ける側が考えて決め、その結果を申告に使う書類に反映する作業では、作業の性質が違います。契約書では、この違いを、作業の説明の言葉で分けて書きます。

作業の性質ごとの書き分け(一般的な整理)

作業の性質例(一般的な例)契約書での書き方の方針
事実の整理・転記資料の並べ替え、指示された項目への転記、入力、ファイルの保管本業務に含められる。入力の元になる資料と、入力の基準を委託者が示す、と書く
判断を要する整理分類の判断、処理方法の選択、書類の記載内容の確定判断の基準を委託者が示し、基準に当てはまらないものは委託者が決める、と書く。受ける側が最終の判断をしない形にする
公的な書類の作成官公署に提出する書類、申告書等の作成本業務に含めないと明記する。作成は委託者または委託者が別に委ねた者が行うものとする
官公署への提出・代理提出の代行、官公署への主張や陳述の代理本業務に含めないと明記する。受ける側は、提出を代行しない
法律上の評価・交渉契約や請求の有効性の判断、相手方との交渉、紛争の対応本業務に含めないと明記する。受ける側は、事実の連絡と記録にとどめる

給与計算・年末調整・記帳・登記を任せるときの境目

給与計算は、バックオフィスの委託で最も頻繁に任される作業の一つです。委託者が決めた支給の条件と勤怠の資料に基づいて、支給額を計算し、給与明細や支給額の一覧を作る作業そのものは、事務の補助として任せる設計が一般的です。ところが、給与に関わる書類の中には、作成や提出の手続が資格者の業務に当たるものが含まれています。給与計算の受託では、どこまでが計算で、どこからが届出や税務の書類なのかを、契約書で分けておく必要があります。

給与計算・年末調整・記帳・登記の作業ごとの書き分け(契約書の設計上の整理)

作業資格者の業務との関係契約書での書き方の方針
勤怠の集計、支給額の計算、給与明細の作成委託者が決めた条件に従う計算や転記は、事務の補助として任せる設計が一般的本業務に含める。支給の条件と計算の基準は委託者が示し、基準にない扱いは委託者が決める
賃金台帳・労働者名簿の作成労働・社会保険に関する法令に基づく帳簿書類の作成は、社会保険労務士法2条1項2号の事務。報酬を得て業として行うことは27条で制限される本業務に含めないと明記する。作成は委託者が自ら行うか、社会保険労務士に委ねる
資格取得届、算定基礎届、労働保険の年度更新の書類の作成と提出手続申請書等の作成と提出手続の代行にあたり、社会保険労務士法27条の範囲に入る本業務に含めないと明記する。受ける側は、届出に必要な資料の回収と整理にとどめる
年末調整の計算、源泉徴収票・法定調書・納付書の作成税務書類の作成に及び得る。税理士法52条は、税理士でない者の税理士業務を禁じており、無償でも許されない本業務に含めないと明記する。委託者が自ら行うか、税理士に委ねる。受ける側は、扶養控除等申告書などの回収と整理にとどめる
会計帳簿の記帳税理士法2条2項は、記帳の代行を税理士の付随業務に掲げている委託者が指示した勘定科目への入力と転記を本業務とし、科目の判断と決算書類の確定は含めない
会社の登記(役員変更、本店移転など)登記の申請手続の代理と、法務局に提出する書類の作成は、司法書士法3条1項の業務。司法書士でない者は行えない(73条1項)本業務に含めないと明記する。登記に必要な社内の書類の保管と日程の調整にとどめる

税理士法52条は、税理士又は税理士法人でない者が、この法律に別段の定めがある場合を除いて、税理士業務を行うことを禁じています。税理士業務の「業とする」とは、税務書類の作成などを反復継続して行う、または反復継続して行う意思をもって行うことをいい、有償であることを要しないとされています(国税庁の税理士法基本通達2-1)。そのため、「無償のサービスだから」「社内の事務を手伝うだけだから」という理由では、境目は動きません。記帳の代行についても、税理士法2条2項の付随業務に掲げられていることから、資格を持たない者が受ける場合は、委託者の指示した科目への入力と転記にとどめ、科目の判断や決算書類の確定は含めない書き方にしておくと、範囲が分かりやすくなります。

年末調整の計算や法定調書の作成が、これらのうちどの業務に当たるかは、作業の中身によって分かれます。契約書では、当てはめの結論を書くのではなく、これらの作業を本業務に含めないことと、委託者が自ら行うか資格者に委ねることを書きます。給与計算の受託でよく起きるのは、「給与計算」の一語で依頼を受けたところ、月の終わりに社会保険の届出や賃金台帳まで頼まれ、範囲が静かに広がっていくことです。次の条文例のように、計算の範囲と含めない書類を並べて書いておくと、断る場面でも条文を示せます。

条文例第○条(給与計算の業務)

  1. 受託者は、委託者が定めた支給の条件および委託者が提供する勤怠の資料に基づき、給与の額の計算、給与明細の作成および支給額の一覧の作成を行う。
  2. 前項の計算の基準に定めのない扱いが生じたときは、受託者は、委託者に確認し、委託者の決定に従って処理する。
  3. 賃金台帳および労働者名簿の作成、社会保険および労働保険の届出書類の作成ならびに提出の手続、年末調整の計算、源泉徴収票その他の税務書類の作成ならびに会社の登記の申請に関する書類の作成および手続は、本業務に含まれない。
  4. 受託者は、前項の業務を行う者(委託者が委ねた資格者を含む。)の求めに応じて、委託者が提供した資料の整理および引渡しを行うことができる。

「給与計算」の一語で受けず、計算の範囲と含めない書類を並べて書きます。書類ごとの当てはめは、実際の業務内容に合わせて加減します。

表の「契約書での書き方の方針」は、あくまで契約書の設計上の整理です。個別の作業が条文のどれに当たるかを判断するものではありません。判断が難しい作業は、範囲外にしておくことで、受ける側が条文の境目に立たされることを避けられます。範囲外にした結果、委託者が自分で行うか、別に委ねるかは、委託者の判断です。契約書は、その分担を明記することで、受ける側が「やってもらえると思っていた」と言われることを防ぎます。

範囲外条項の書き方:除外する業務と責任の所在を書く

範囲外条項で、よくある書き方は「本業務は、法令により資格者の業務とされているものを含まない」という一文だけの形です。この書き方は間違いではありませんが、何が除外されるのかが読み手に伝わらず、実務では機能しにくい書き方です。除外する業務を具体的な種類で書き、除外した業務についての責任の所在を示すと、運用の場で使える条文になります。

書き方の例(一般的な例) 範囲外条項の書き方

除外の書き方

よくある書き方本業務は、法令により資格者のみが行える業務を含まない。
整えた書き方本業務は、次の各号に掲げる業務を含まない。(1)税務官公署に提出する申告書等の作成、申告等の代理または代行、租税に関する相談 (2)労働・社会保険に関する法令に基づく申請書等の作成、その提出手続の代行、行政機関に対する代理、及び同法令に基づく帳簿書類(賃金台帳、労働者名簿等)の作成 (3)法律事務(相手方との交渉、法的な有効性の判断を含む。) (4)官公署に提出する書類の作成および提出の代行 (5)契約書その他の権利義務又は事実証明に関する書類の作成(委託者が作成した文書の体裁の調整を除く)

理由「資格者の業務」という抽象的な言葉ではなく、除外する業務を種類で書くと、運用の場で確認できる

除外した業務の責任

よくある書き方(記載なし)
整えた書き方前項各号に掲げる業務は、委託者が自ら行い、または委託者の責任において別の者に委ねるものとし、受託者は、これらの業務の内容および結果について責任を負わない。受託者が提供する資料の整理の結果は、委託者が前項各号の業務に用いるときは、委託者が内容を確認する。

理由除外した業務の責任が受ける側に戻ってこないよう、分担を明記する

依頼があったとき

よくある書き方(記載なし)
整えた書き方委託者が第○項各号に掲げる業務を依頼したときは、受託者は、これを断ることができる。受託者が断ったことを理由として、委託者は、受託者に不利益な取扱いをしてはならない。

理由範囲外の依頼を断る権利を、条文で確認しておく

条文例第○条(本業務に含まれない業務)

  1. 本業務は、次の各号に掲げる業務を含まない。(1)税務官公署に提出する申告書等の作成、申告等の代理または代行、租税に関する相談 (2)労働・社会保険に関する法令に基づく申請書等の作成、その提出手続の代行、行政機関に対する代理、及び同法令に基づく帳簿書類(賃金台帳、労働者名簿等)の作成 (3)法律事務(相手方との交渉および法的な有効性の判断を含む。) (4)官公署に提出する書類の作成および提出の代行 (5)契約書その他の権利義務又は事実証明に関する書類の作成(委託者が作成した文書の体裁の調整を除く)
  2. 前項各号に掲げる業務は、委託者が自ら行い、または委託者の責任において別の者に委ねるものとする。受託者は、これらの業務の内容および結果について責任を負わない。
  3. 受託者は、委託者が前項各号に掲げる業務を依頼したときは、これを断ることができる。
  4. 受託者が本業務の遂行にあたり整理した資料、集計した数値その他の成果を、委託者が第1項各号の業務に用いる場合には、委託者の責任において内容を確認した上で用いるものとする。

号の数や言葉は、実際の業務内容に合わせて加減します。除外する分野が事務の中身と無関係であれば、その号は置かなくて構いません。

秘密保持の契約書に入れるか、業務委託の契約書の範囲条項に入れるか

範囲に関する確認、たとえば、受ける側の業務が資格者の業務に当たらないことの確認を、どの書類に置くかという問題があります。受ける側からすれば、「自分の業務は資格者の業務ではない」と先に確認しておきたい気持ちがあり、手近な秘密保持の契約書に書き込みたくなることがあります。しかし、この確認を秘密保持の契約書に置くと、いくつかの不都合が生じます。

確認の問いと理由範囲の確認を、どの契約書に置くかの問い

  1. その確認は、秘密保持の対象となる情報の扱いに関する約束か。

    秘密保持契約は、情報の扱いを定める契約。業務の範囲や性質は、業務委託契約の範囲条項の領域。置き場所を間違えると、片方の契約が終わったときに確認だけが宙に浮く。

  2. 秘密保持契約が先に結ばれ、業務委託契約が後に結ばれるか、または結ばれないか。

    業務委託契約書がない運用だと、範囲の定めの置き場所がなくなる。範囲は業務委託契約に置き、秘密保持契約には置かない整理が、運用上は安定する。

  3. 確認の文言は、範囲を除外するものか、法的な性質を断定するものか。

    「当社の業務は資格者の業務に当たらない」と断定する書き方は、判断を契約書に持ち込む。除外の書き方(「含まない」)にとどめるほうが、契約書の役割に合う。

範囲に関する定めは業務委託契約の範囲条項に集め、秘密保持の契約書は情報の扱いに絞ると、契約書ごとの役割がはっきりします。

この整理は、書類が複数に分かれる場面で効いてきます。秘密保持契約書、業務委託契約書、個別の依頼書、個人情報の取扱いに関する覚書と、書類が増えるほど、同じ事項が複数の書類に別々の言葉で書かれ、食い違うおそれが高まります。範囲に関する定めは一か所に集め、他の書類には「業務の範囲は業務委託契約書による」と参照だけを置く形が、読み手にも運用者にも分かりやすくなります。

範囲外の依頼が来たとき、記録をどう残すか

範囲外条項があっても、依頼の現場では、資格者の業務に近い作業が「ついでに」頼まれることがあります。たとえば、事務の補助をしている流れで、官公署に出す書類の下書きを頼まれる、相手方との交渉の連絡文を作ってほしいと頼まれる、といった場面です。ここで大切なのは、受ける側が、何を頼まれ、どう扱ったかを記録に残すことです。手順そのものは業務範囲のページの流れと同じですが、資格者の業務に近い依頼には、追加で次の点を残します。

範囲外の依頼を受けたときに記録に残す項目

  • 依頼の日時、依頼を出した人、依頼の内容(原文のままの文面を保存する)。
  • 範囲外条項のどの号に当たるのかの整理(条文の当てはめではなく、契約書上の号との対応)。
  • 断ったこと、または委託者が別に委ねることを確認したこと、その返信の日時。
  • 断った後に、委託者から資料の整理など範囲内の作業だけが依頼されたときは、その依頼の範囲。
  • 同種の依頼が繰り返されたときは、窓口担当者への注意喚起の記録。

記録は、受ける側を守るための資料です。範囲外の依頼を断ったという記録があれば、後から「頼んだのにやってもらえなかった」と言われても、事実の経過が示せます。逆に、範囲外の依頼を黙って受けて作業をしてしまうと、その作業の結果について、受ける側が責任を問われる場面が生じます。

受ける側の広告・名称の注意

範囲条項は契約の内側の話ですが、受ける側には、契約の外側にも注意すべき点があります。それは、自分の業務の名称や広告の書き方です。資格者の名称は、法律で、資格を持たない者が用いることを禁じられています。たとえば、税理士でない者は、税理士又はこれに類似する名称を用いてはなりません(税理士法53条1項)。社会保険労務士でない者は、社会保険労務士又は社労士その他の類似の名称を用いてはならず(社会保険労務士法26条1項)、行政書士でない者は、行政書士又はこれと紛らわしい名称を用いてはなりません(行政書士法19条の2第1項)。弁護士又は弁護士法人でない者は、弁護士又は法律事務所の標示又は記載をしてはならず、利益を得る目的で法律相談その他法律事務を取り扱う旨の標示又は記載もしてはなりません(弁護士法74条1項・2項)。

これらの規定は名称の使用を制限するものですが、実務で気を付けたいのは、名称そのものだけでなく、サービスの説明の書き方です。「決算書類の作成まで一括」「各種申請を代行」「労務の手続を丸ごと」といった表現は、資格者の業務を行うかのような印象を与えることがあります。受ける側が、事務の補助として行う作業を、事務の補助と分かる言葉で説明することが、結果として受ける側自身を守ります。

書き方の例(一般的な例) サービス説明の書き方

経理の補助

よくある書き方決算・申告まで一括でお任せください。
整えた書き方領収書や請求書の整理、会計ソフトへの入力、月次の資料の取りまとめを行います。申告書類の作成や税務の判断は含みません。

理由何をするかと何をしないかを併記して、誤解を避ける

手続の補助

よくある書き方各種の申請手続をすべて代行します。
整えた書き方委託者が申請に使う資料の整理や、日程の調整を行います。官公署への申請書類の作成や提出の代行は含みません。

理由「代行」の対象を事務の補助に限定して書く

広告や自己紹介の文面と、契約書の範囲条項が食い違っていると、契約書でいくら除外を書いても、実際には外に出した説明が委託者の期待を作ってしまいます。範囲条項を整えたら、サービスの説明文、申込みの案内、名刺、プロフィールを一度見直すのが、実務上の順序です。

締結前のチェックと、起きがちなこと

範囲外条項のチェックリスト

  • 資格者でなければ行えない業務を、種類で書き分けた「含まない業務」の条文があるか。
  • 含まない業務について、委託者が自ら行うか、別に委ねるかの責任の所在が書かれているか。
  • 整理して渡す作業と、判断して作成する作業が、別の作業として書き分けられているか。
  • 範囲外の依頼を断る権利と、断ったことで不利益に扱われないことが書かれているか。
  • 範囲に関する定めが、秘密保持の契約書ではなく業務委託契約の範囲条項に置かれているか。
  • サービスの説明や広告の文面が、範囲条項と食い違っていないか。
  • 受ける側の名称や肩書が、資格者の名称と紛らわしくないか。

起きがちなこと

  • 「事務全般」と「経理の補助」を重ねて書いたため、申告書類の作成まで頼まれる期待が生じ、後から範囲外だと主張しても通りにくい。
  • 範囲外条項が「資格者の業務を含まない」の一文だけで、何が含まれないのか、委託者にも受ける側にも伝わっていない。
  • 範囲の確認が秘密保持の契約書にしか書かれておらず、業務委託契約書を結んだときには参照されない。
  • 範囲外の依頼を口頭やチャットで受け、記録がないまま作業をしてしまい、結果について責任を問われる。
  • 広告では「申請を代行」と書き、契約書では「代行は含まない」と書いているため、食い違いが争いの種になる。

このページは、条文の当てはめを行わず、契約書の書き方に絞って整理しました。範囲を整えたあとは、報酬の単位との関係を報酬の決め方のページで、全体の流れを全体像のページで確かめてください。

よくあるご質問

事務代行の契約書に「資格者の業務を含まない」と書けば十分ですか。

一文だけでは機能しにくい書き方です。何が含まれないのかを、申告書等の作成や代理、労働社会保険に関する申請書等や帳簿書類の作成と提出手続の代行、法律事務、官公署に提出する書類の作成、契約書などの作成のように、種類で書き分けたほうが、運用の場で確認できます。あわせて、除外した業務は委託者が自ら行うか、別に委ねるものとする、という責任の所在も書いておきます。

記帳の代行は、税理士法に違反しませんか。

税理士法2条2項には、税理士が付随業務として会計帳簿の記帳の代行を行える旨の定めがあり、同条1項の「税理士業務」とは別に置かれています。税理士でない者が記帳の代行を受けられる範囲は、作業の中身によって分かれます。契約書では、記帳の代行と税務書類の作成を別の作業として書き分け、後者を範囲に含めないのが出発点です。

範囲外の依頼を断ったら、委託者から契約違反だと言われませんか。

範囲条項に、除外する業務と、依頼を断ることができる旨が書かれていれば、断ること自体は契約違反になりません。断る権利の書き方と、断った記録の残し方は、業務範囲のページで整理しています。

「経理代行」「手続代行」という名称で営業してもよいですか。

名称そのものが直ちに禁止されるとは限りませんが、資格者の名称に類似した名称や、資格者の業務を行うかのような説明は問題になり得ます。資格者の名称の使用制限は、税理士法53条、社会保険労務士法26条、行政書士法19条の2、弁護士法74条に定められています。実務では、事務の補助として行う作業を、補助と分かる言葉で、含まない作業とあわせて書くのが安全です。

範囲に関する確認は、秘密保持契約書に書いておいても問題ありませんか。

違反になるわけではありませんが、運用上の不都合があります。秘密保持契約は情報の扱いを定める契約で、業務の範囲は業務委託契約の領域です。範囲の定めを秘密保持契約にだけ置くと、業務委託契約を結んだときに参照されず、契約が終了したときに確認だけが残ります。範囲に関する定めは、業務委託契約の範囲条項に集めるのが、書類全体の整合を保ちやすい整理です。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、業務の内容や預けるものの種類、当事者の事業の形によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 個人情報保護委員会 / 公正取引委員会 / 厚生労働省

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